お父さんの想いが詰まったオカリナたち
ここは八ヶ岳南山麓 原村。葉の色が濃くなりはじめた木々のしたを通って森の中を進むと小さなログハウスが見える。今回訪ねたのは、木のオカリナをつくりと演奏活動をする姉妹、樹音(じゅね)。その生い立ちとオカリナに対する想いを聞いた。
「森のオカリナ 樹・音」を作ったのは樹音の2人、安川桃さんとカンナさん姉妹の父、安川誠さんだ。
もともとフォークシンガーとしても活動していた誠さん。“ゆっくり音楽をやりたい”、その想いから10年以上前に長野県・原村に住まいを移し、オカリナづくりをスタートさせた。
最初は失敗作が山ほどできた。「もうこんなの続けられない!」と喧嘩になったこともあると、奥さんのみどりさんは笑いながら振り返る。それでもオカリナ作りは続けられ、並行して演奏などの活動も始めた。
2004年に大きな転機が訪れる。誠さんに舌癌が見つかったのだ。手術で一度は切除し通常の生活に戻ったが、顎に腫瘍が見つかり転移が発覚する。
不思議なことに病気になった頃から仕事が増えていった。誠さんは病と戦いつつ全国を飛びまわり、各地で精力的にコンサートなどを行っていた。
「森のオカリナ樹・音」が完成したのは、2010年。闘病生活の末に亡くなった誠さんの出棺の日の朝、商標登録が届けられた。まさに父の遺作。それが「森のオカリナ樹・音」なのだ。
「森のオカリナ樹・音」は、ひとつひとつ手作業で作られている。だから、同じ種類の材木でも微妙に音色や響きが変わる。だが、どのオカリナにも共通しているのは、耳だけでなく心に染み込んでいくような音色。それはまるで森の中にたたずんで小さな鳥たちが鳴いているのを聴いているかのようだ。
オカリナをつくる中でも特別な素材がある。旬期(しゅんき)伐採といって、特定の時期・新月の日に伐採した木だ。月の満ち欠けや植物のサイクルに考慮して旬期伐採した木は通常よりも水分の量が少なくとても良質だ。その木を森で自然乾燥させて材木に仕上げていく。出来上がるまでに5年。このオカリナの音色もまた不思議と引き込まれてしまう魅力に満ちている。
もう一つ、父・誠さんの闘病生活の経験から出来上がった楽器がある。「森の笛ポーネ」だ。
楽器の構造は至ってシンプル。音の出る穴以外の音階を調整する穴が底面にひとつだけだ。演奏するのに底面を手のひらなどで押さえるだけでなので、体の不自由な人や複雑な運指が難しいお年寄り、子どもでも簡単に吹ける。
「吹く」という行動が呼吸器官や口や舌のまわりの筋肉を刺激し、音楽のリズムにのることで脳や体に刺激を与える。楽しく演奏することがリハビリや訓練にもなる。その効果を知ったことで生まれたのが「森の笛ポーネ」だ。普段から老人ホームなどでボランティア活動をしてきたからこそ生まれた楽器ともいえるだろう。
…続く