野菜の世界では定着した無農薬栽培という形。そんな無農薬の考えを、同じ農業の別のジャンルで始めている人がいる。「ataraxia(アタラクシア)」の町田裕樹さんだ。
「ataraxia」が手がけているのは花。富士見町にあるハウスで、花苗を無農薬で育てている。食べるものではない花で無農薬というのは最初に聞いたときの正直な感想は「なぜわざわざそんなことを?」だった。町田さんもこれまで何度となく「なんで?」と尋ねられたという。
「テーブルに飾るような花やハーブなんかでは無農薬をやっている方もいますが、花苗でやっている人は僕も会ったことないですね」と町田さんは笑う。だけど、町田さんから見れば「どっちも農業じゃないですか」なのだ。
「『農薬や化学肥料を使ってずっと農業を続けられるのか?』っていう疑問があって。土地に負担をかけ続けながら、農業を続けていけるのかというのは、野菜も花も変わらない」(町田さん)
農業を続けることは、土地と生きること。農業を続ける、そこで人が暮らすことを考えた結果、たどり着いたのが花の無農薬栽培という方法だったというわけだ。
とはいえ、無農薬栽培の花、オーガニックフラワーという考えはまだまだ浸透してはいない。無農薬であることを明示して扱ってくれる販路も少ないという。今は「大地を守る会」や直販などが中心だ。
町田さん自身「超ニッチ」というオーガニックフラワーだが、実際に買った人からは反応が返ってきているそうだ。なかでも面白いのは、「ataraxiaの花は元気」という声。庭などに植える花を多く扱うataraxiaだが、「今まで何を植えてもうまく育たなかったのに、ataraxiaの花はすごく元気に育つ」なんて人もいるのだという。
無農薬という方法自体も面白いが、ataraxia自体も珍しい場所になっている。栽培のためのハウスではあるが、オープンスペースとなっていて、誰でも気軽に立ち寄れる。直接花を購入することも可能だ。アート作品の展示やイベントが行われることもある。
「ataraxia」とはギリシア語で「平穏」や「穏やかさ」を意味する言葉。町田さんのハウスには、現在形の平穏が漂っているのと同時に、未来の人の暮らしの平穏が育っている。