八ヶ岳エコーラインを原村方面から茅野方面に向かうと、左手に立派な蔵が姿を見せる。ここで「傍(かたわら)」という事業ブランド名のもと、新しいことを始めようとしている会社がある。
会社の名前は「APPLE NOODLE INC.」。山﨑高志さんとさおりさん夫婦で起業し、この夏には蔵の前で自分たちで作った野菜の直売を実施。2014年には農業生産だけでなく、加工、販売なども自分たちで行い、この場所に飲食店もオープンする予定だ。
とても優しい笑顔が印象的な2人は、お子さんも生まれたばかり。若い二人がこの「蔵」をどんな場所に変えていくのかが楽しみだ。
新規就農者として農業をはじめたばかりの2人だが、農業をずっと営んできた祖父母や、両親、さらには地域の人々に支えられ、日々、学びながら前に進んでいる。
そんな彼らの姿は、「APPLE NOODLE INC.」のFacebookで見ることができる。
そこに掲載された笑顔のおばあちゃんや、農作業に奮闘する姿、支えてくれる人々の写真を見ていると、大変さと同時に“楽しんでいる”様子が伝わってくる。従来の農家のイメージとは違う、新しくてワクワクするような写真だ。
そして、彼らが何をしようとしているかというイメージも伝わってくる。まるでオープンキッチンで料理をするシェフの姿をテーブルから見るように、農業もつくっている姿を見られるのだ。そうして過程を見ることで、2人のこだわりのようなものも感じられる。
しかし、APPLE NOODLE INC.の取り組む、農薬と化学肥料を使わない農業というのは想像以上に大変なものだ。
おいしい野菜をつくるということは、動物や、昆虫たちにとってもおいしい野菜をつくっているということ。当然、そんな野菜が畑にあれば食べられてしまう。さらには、栄養の多い畑では、作物だけでなく雑草もすくすく育つ。そうした雑草は抜いても抜いても、何日かすればすぐにまた生えてくる。
そのため、虫が大好きな野菜のそばに虫が嫌いな野菜を一緒に植えたり、地道に害虫駆除をする必要が出てくる。雑草も、毎日のようにとり続けるしかない。
土づくりだって簡単にはいかない。野菜は土から養分を吸い上げて大きくなる。そのため、土に十分な栄養がなければ野菜は育たない。だが、それだけ栄養のある土を、石油や鉱石から科学的に合成した化学肥料に頼らずにつくろうとすると、何年もかけて落ち葉などを発酵させてつくった堆肥や、米ぬかや魚粉などを使うことになる。そうして、毎年毎年、野菜をつくる前に土づくりから取り組み、野菜たちに与える栄養を土の中に蓄えておかなければならない。
だが、そうしてつくった野菜は、つくり手自身も安心して人に勧めることができる。
「私たちの野菜はどうしても大きさや形がバラバラになるし、見た目負けしちゃうんですよね。でも。お客さんと直接は話すことでわかってもらえるのがとてもうれしかったです。」とさおりさんは語る。直接コミュニケーションすることでより多くのことを伝えられるというのはもちろんあるが、それもどうつくったかを知っている人間だからこそできることだ。そして、つくり手自身が畑で採って、そのままでも安心して食べれる野菜であることを知っているから、自信を持って勧められる。直売という形は、薬と化学肥料を使わない農業とうまくマッチしているのだ。
実は、この農法は茅野市でレストラン ディモアを営む両親から受け継いだものだ。さおりさんの両親は、ディモアで使うための野菜を農薬・化学肥料不使用の農法でつくり続けてきた。
そして、生産、加工、販売を融合させるプランもまた、「考えてみたら、それって自分の両親がずっとやってきたことでもあったんです。」とさおりさんは語る。
農地、蔵、農法、様々なものを継承しながら新しいことへと挑んでいくAPPLE NOODLE INC.。そして、そうした有形無形の財産を継承することで収穫できた野菜。
そんな野菜に出会える、笑顔の素敵な二人のいるお店づくりが、今、少しずつ進んでいるのだ。